以前から不調を訴えていたMetronome TechnologyのD/AコンバーターC2Aが修理から無事帰還、当店Room2のLumen whiteシステムに戻って参りました。同社KALISTAとマッチングする6922/6N1P真空管出力回路を備えた24bit/192khzサンプリングの当機、その器量はいかほどか。長旅の疲れを癒す暇も与えず、早速ひと仕事してもらいました。
本日はBoulder 1012DAC PRE、ESOTERIC D-70VU、そしてC2Aと、Lumen whiteシステムに組み込んでいる三つのD/Aコンバーターを比較試聴し、三つ巴戦を行ってみました。トランスポートはKALISTAR、試聴盤はチェリビダッケ指揮「モーツァルト第40番」、それに女性ボーカルものとしてLISA「Light My Fire」です。では行ってみましょう。
一番手はDAC内臓プリアンプ、boulder 1012。こいつは三系統のアナログ入力、一系統のフォノ入力に加え、四系統(Balance×3、TOS×1)のデジタル入力と豊富な装備を誇り、同社DSPテクノロジーを用いたハイレベルの演算処理、そして裏表のない艶やかで美しい響きで、国内でも人気を博しております。
その第一印象は「落ち着いた優等生」。高い分解能を保持しながらも、甘いミルクのような物腰の柔らかさ、なめらかさが際立ちました。40番では客席の拍手、各楽器の胴鳴りに芳醇な温もりを感じ、一音一音を丁寧に並べていく様に好印象を持ちました。ただ、このプリの持つアナログ入力の躍動感のある音質に比べると、やや落ち着き過ぎの印象も受けました。LISAでは、もう少し上下動を感じさせる躍動感あふれる歌声が欲しいところではありますが、内蔵型としては高いクオリティを誇っていることを実感します。
続いてはESOTERIC D-70VUです。こちらも国内、海外問わず人気のある同社の代表的なDACですね。
第一印象は「目鼻立ちのはっきりした美青年」です。
先程のボルダーに比べ、輪郭の鋭さ、解像度の高さがより際立っています。LISAのヴォーカルは適度な湿度を保ちながらサウンドステージにまざまざと現れ、ボールダーではやや曖昧だったウッドベースのアタック音やバスドラムの鮮明さに、この機器の持つブルーのLEDと相まって、抜けの良い爽快感が印象に残りました。その一方で欲を言えば、ファジー機能のついた扇風機のようだったらという願望が残ります。「強」「中」「弱」のボタンは、それぞれの「風量」は的確で申し分ないのですが、もう少し人肌にやさしい微調整が欲しいところ。特に、40番ではその「強」と「弱」がやや作為的に感じられる瞬間があり、そこでもう少し伸びやかさと艶があると更に良い仕上がりになったと思います。ただ、このあたりのニュアンスは、その他の機器やテクニックで十分にチューニングが利くゾーンであり、この機器の画然とした明瞭さには依然として高い満足感を感じました。
最後に登場するは、長旅から帰ってまいりましたMetronome Technology C2Aです。
さすがは女房役トランスポートKALISTARとの名タッグ、今回の三つ巴戦では堂々の優勝です。眼下に広がる雄大なサウンドステージ、その奥に広がる三次元の空間をどこまでも音が伸び流れていく様は圧巻です。40番では、他では聴けなかったホールトーンがありありと感じられ、演者の息遣いとともに伝わる楽器どうしの呼応は目に見えるかのようでした。底からてっぺんに向かって音の絨毯が湧き上がり、それから浮き沈みする様なコントラバスの生々しい上下動には息を飲みました。音のダイナミズム、振れ幅もダントツの表現力で、LISAのヴォーカルでは彼女の意図する緩急、濃淡を余すことなく汲み取ったスケールの大きさを感じます。ウッドベースは、前出のD-70に比べますとやや音に締りがないところがありますが、決して弛緩しているのではなく、適度な人肌感も十分で、音楽性の高さを感得いたしました。
D/Aコンバーターは、情報の入り口を司る機器です。そのため、各機種による音作りの違いは音楽の表現力や立体感にダイレクトに作用するので、比較試聴はまさに興趣が尽きないところであります。多少なりともご興味をお持ちでしょうか。できれば、こうした比較をお客様と楽しめたらと思います。
(M)